日本の医師から見たスイスでの妊娠出産(26)~さながらリアルER~
足がわで処置、体の右からはエコー、左側では、助産師さんに加えて、麻酔を入れてくれた麻酔科医の先生とその助手らしき人がバイタルチェックや輸液、薬剤投与をしていました。
本当に(医師の私が言うのも変ですが)、リアルERみたい。
一人目でも同じような状況になりました。
その時は自分で自分のモニターを眺め、えらくタキっている(脈拍数が多い;140-160程度だった)のを見て、全然動悸みたいなのは感じないのになあ、なんて思っていました。
今回は、そこまでタキっていない代わりに、収縮期血圧が100を切っていました。
正常血圧の範疇ですが、私は妊娠高血圧でほんの数十分前までは150ほどあったのです。
その変化が大き過ぎたためか、一人目の時にはまったくなかったのに、今回は、なんと、意識がもうろうとしてきました。
そして助産師さんに何かを伝えようと思っても、声が出ないし、呂律も回りません。
これは明らかにおかしい、と自分でも思いました。
それでもまだ出血は止まらない様子で、輸液も全開、スタッフ総出のLDR全体が緊迫していたと思います。
そして担当助産師さんが私の耳元に来て「いまから手術室に行きます」と。
もうろうとした意識の中で、『手術室?ってことは、私は子宮取られるのか』と思いました。
というのも、周産期にに何らかの原因で子宮から大量出血することがありますが、このときにまったく出血が止められない場合は、最悪子宮を摘出するのです。
子宮は命に代えられません。
子宮摘出を回避する場合は、緊急カテーテルでの動脈塞栓ということもあります。
(まだ一人もお子さんがいない場合など)
『私はすでに元気な子供を二人産んだ。きっと迷わず子宮を摘出するんだろうな』と思いました。
大量出血を一刻も早く止めるには、子宮全摘が一番確実で迅速なのですから。
助産師さんたちが移動の準備をしていて、医師たちが必死で血圧を維持しようと処置を進めていたところ、なんとなく、空気が和らいで来ました。
足がわで処置をしていたメインの産科医の先生の処置がうまくいった様子で、子宮内の遺残物がほとんど取れて、出血が止まったみたいでした。
なんとか、手術を回避しました。
みんな安堵の表情となり、そのことを私に説明してくれました。
でも、私は意識がもうろうとしていました。
危機を脱しましたので、スタッフが、ひとり、またひとりと部屋を後にしました。
メインの産科医の先生と、最初からいた助産師さん、麻酔科医チームは最後まで残っていました。