娘の救急受診したときのはなし(2)
(前回の話の続きです)
その日以降、しばらくは患部に当たらないようにスプーンで食べ物を口の中に入れてあげたり、水分もストローで飲んで、患部を保護するように努めました。
患部はなんとか血餅でくっついていますが、しばらくは、簡単に再度開いてしまう状態だと思いますので、大事を取って、二日間ほど保育園もお休みしました。
幸い、私はちょうど産休に入っていましたので、仕事がなく、娘とゆっくり過ごせました。
その後、娘の唇は順調に回復し、大きかったかさぶた(痂皮)も、ずいぶんはがれてきれいになっていきました。
(医学的に言うと、唇や口内の組織は重層扁平上皮というのでできており、常に脱落、再生を繰り返しているので、創傷治癒が早い部位なのです)
この事故は、小児科医である私でも、動転する出来事でした。
子を持つ親ならだれでも、肝がヒヤッとする場面ですね。
そして、ここからはスイスならではの医療事情です。
スイスでは、健康保険加入が義務ですが、どの保険会社の保険に入るかは自分で決めます。
そして、こうした事故にあった場合、そのことを自分の保険会社に報告する必要があります。
所定の紙に書いて郵送するか、ウェブ上で入力して送信することもできます。
我々はもちろんウェブ上で。
なにせ、基本的に保険会社は公用語であるフランス語、ドイツ語、イタリア語のみ対応ですので、事故の申告フォームも英語はありません。
でも、PCでやれば、グーグルトランスレーターが完璧はアシストをしてくれます!
この時代で本当に助かりました。
そして事故のことを詳細に記述し、送信しました。
後日保険会社から連絡があり、上唇のあたりを強く打ち付けたということなので、前の歯にも異常がないか、歯科受診して診てもらうように、との指示がありました。
さらっと書いていますが、スイスはなんでも手続きに時間がかかります。
この歯科受診の指示がきたとき、すでに事故から一か月くらい経っていて、傷もずいぶんよくなってきていて、ご飯もふつうに食べているときでした。
歯の不調も全くないですし、私が診ても歯に異常はありません。
それでも、スイスでは保険会社の指示に従わなくてはなりません。
というのも、もし今後前歯に何か異常が起こった時に、前のトロッティネットの事故のせいで起きたものではないか、ということになったら、保険カバーに影響するというのです。
指示に従い、歯科予約をして受診しました。
この時も、前日に娘にはプレパレーションを行いました。
歯科受診は、東京に住んでいたころの歯科検診以来です。
泣かずにできたことはありませんでした。
ですので、歯科での予想される場面を娘に説明し、シミュレーションをしました。
「先生が、お口を開けてって言ったら大きく開けてね。先生がお口をこんな風に開いて持つと思うよ。それで、パシャっと写真を撮ると思うよ」
当日、まさにその通りに診察が行われましたので、娘は固まりながらも上手にできました。
その歯科では、診察室にいながらレントゲン写真も撮れるようで、レントゲン写真の時は先生も歯科助手の方も、私(妊娠中)も、診察室から出て、娘ひとりになるのですが、それにも驚かず、じっとしたままで上手にできました。(診察室がガラス張りでしたので、娘の様子がよく見えました)
娘の成長にホロリとくる場面ですね。
結果的に、やはり歯にも異常なく、先生が、レントゲン写真に将来生えてくる大人の歯が見えてるよと教えてくれて、ほっこりしました。
通常スイスで医療受診した場合は、後日その医療機関から請求書が送られてくるお話は前にしましたが、この時は、この事故一連のこと、ということで、救急センターと歯科の請求を合わせて後日保険会社から請求書が送られてきました。
はっきり覚えていなくて申し訳ないのですが、おそらく3~4万円程度だったと思います。もちろん年間の限度額(子供の場合は約6万円)までは、全額自己負担です。