日本の医師から見たスイスでの妊娠出産(10)~スイスの産科クリニックと出産病院の連携~
スイスでは、通常、妊婦検診を受けるクリニックと、実際に出産する病院とは別です。
まず強調したいことは、私はこのシステム、とてもいいと思います。
日本では、通常、妊婦検診から出産まで、同じ産科医院、もしくは病院でやると思います。(里帰り出産の場合は別と思います)
私自身、一人目の時は東京でしたので、一番最初の妊娠確認のときだけ近くの産婦人科クリニックでやってもらい、その後は妊婦検診から出産まで一つの病院でお世話になりました。
でもスイスでは違うのです。
妊婦検診は、入院施設や分娩施設のない街のクリニックで。
出産は、大きな病院で、と言うのが一般的です。(重大な合併症がある場合は別です)
最初の診察の時にこれを説明されました。
「妊婦検診はここでできます。出産をどの病院でするか、妊娠8か月くらいまでに決めて教えてください。紹介状を書きますので」ということでした。
日本では、場所によっては、かなり早い段階で分娩予約を入れないと埋まってしまうということが起こりがちですよね。
スイスでは加入保険によって、出産病院として選べる病院に違いがあります。
といっても、私が加入している最もベーシックな保険でも、私の住んでいる地域で最も大きい病院(日本で言う大学病院で、スイスでも1番か2番の大きさ)で出産することができますので、保険による病院の違いと言うのは、医療水準の違いではなく、あくまでサービス面だと思われます。
そして、この、妊婦検診と出産病院が別々であることがとてもいいと思うのです。
なぜかというと、最近日本では、周産期の事故が大きな問題になっています。
個々の事案について、ここで詳述するのは難しいですが、もし、救える命が救えないとしたら、それはなぜか、それは第一に「人手不足」であると思います。
比較的小規模の産院での分娩は特に夜間など、医師は一人しかいないことが多いと思います。
その時に予期せぬ事態に陥ったらどうなるでしょう。
医師が一人では、褥婦さんと赤ちゃん両方の蘇生をすることは大変困難です。
もちろん、あらかじめ合併症などのリスクのある方は大きな病院で産む予定になっていることが多いと思います。
しかし、お産には常に予期せぬ事態がつきものなのです。
常に、医療は余力のある状態で、予期せぬ事態に備えなければならないのです。
私自身、一人目の時、健康な妊婦で目立った合併症もないため、ノーリスク、ノーマークの妊婦でした。
ただ、上記の通り、小規模の産科医院での出産に不安がありましたので、大きな病院で出産する予定としていました。
すると、なんとお産の直前になって急に妊娠高血圧症候群となり、出産後も大量出血したのです。
幸い、赤ちゃんは問題なく、無事でしたが、それでも、スタッフの少ない病院だと大変だったと思います。
ですので、お産の際にはスタッフが常にたくさんいる大きな病院で、というのがベストであると思います。
ただし、大病院が、すべての妊婦さんのお産も、妊婦検診も請け負っていては、負担が大きすぎます。
そういったことを考えると、スイスのように、ノーリスクの妊婦さんの検診は街のクリニックで、出産はみんな大きな病院で、というシステムは大変理にかなっていると思います。
日本人の感覚として、ずっと妊婦検診してもらっていた先生に赤ちゃんもとりあげてもらいたいという人情もあると思います。
しかし、もっと大切なこと、安全であることを第一に考える必要があります。
日本でも、産科だけにとどまらず、いろいろな科で、もっとクリニックと病院のすみわけ、連携が合理的になっていくことを大いに期待しています。