日本の医師から見たスイスでの妊娠出産(7)~スイスの出生前診断番外編~
日本では、新型出生前診断を受けて、「陽性」であった妊婦さんの95%以上が、その後中絶を選択したというデータがあります。
これには、理由があって、このデータを取ったときは、まだまだ日本では新型出生前診断が広まっておらず、集団にバイアスがあったために出た数字であると考えられます。
しかし、今後新型出生前診断が広まっていく中で、この数字にはならないかもしれないですが、妊娠を中断することを選択する人が増えるのも事実だと思います。
私の個人的な見解や、小児科医としての見解はあるとして、妊娠をすること、継続すること、出産することは、その当事者(妊婦さんおよびパートナー)に決定権があることは揺るぎありませんので、このことが間違っていると思いません。
ただし、親になる上で、ちゃんとした知識をしっかり蓄えて判断できればいいかなと思います。
もちろん、事態は個々に異なると思います。
家庭環境や健康状態など。
その個々に合わせて相談し、当事者の方たちが一番納得のいく選択をすることが重要です。
後日談ですが、これだけ新型出生前診断を受けるハードルの低いスイスですが、実際のところ、「陽性」となった場合、スイスのみなさんどうしているのだろうということが気になっていました。
立ち入った話ですし、私の妊娠のことと直接的に関係がないので、Dr Cに聞けずにいましたが、出産後、一か月健診の時に、もうクリニック卒業となるので、聞いてみることにしました。
すると先生のお答えは以下の通りでした。
「妊娠を中断する決断をされることが多いです」
スイスは、日本とは違う側面を持っていますので、なんとなく、ぼんやりと、日本と違う回答があるのかななんて思っていましたので、ほんの少しショックだったというか、なんとも言い表せない気持ちになりました。
日本では「希望する」と意思表示をしないとできない出生前診断。
スイスでは「希望しない」と意思表示をしないと、自動的に検査されてしまいます。
つまり、「陽性」後、「中絶」にすすむ割合を高くするバイアスは日本よりはるかに、ないはずです。
スイスでできた友人で、ドイツ人の産婦人科医の女性がいます。
私の子供たちと近い年齢の子供たちがいます。
私が、出生前診断の話をしたら、彼女は、希望して検査を受けなかったと言いました。
だって、どんな結果でも、中絶はまったく考えないから。と。
ヨーロッパでも、日本でも、考え方はひとそれぞれです。
しっかりした知識と覚悟をもって、なんて言ってましたが、当の私が流されるように検査を受けました。
いろいろな人の経験談を読んだり、小児科医としての経験を顧みたり、友達の話を聞いたり、Dr Cの話を聞いたりする中で、世の中の常識や倫理はその都度変遷していく、その流れをつかみつつ、一方で自分というものをしっかりもっておかないとと思いました。